噪《さわ》ぐ者あるので、母に告げると、蝋燭を点《とも》して見出せという。次の夜、蝋燭点して見ると、玉のごとき美少年胸に鏡を著《つ》けたるが眠り居る。その次の夜もかくして見るとて、誤ってその鏡に蝋を落し、少年たちまち覚めて汝はここを去らざるべからずと歎き叫んだ。少女すなわち去らんとする時、精魅現われて糸の毬《まり》を与え、最も高い山頂に上ってこの毬を下し、小手巻きの延《の》び行く方へ随い行けと教え、その通りにして一城下に達するに、王子失せたという事で城民皆喪服しいた。たまたま母后窓よりこの女を見、呼び入れた。その後この女愛らしい男児を生むと、毎夜靴を作る男ありて「眠れ眠れわが子、汝をわが子と知った日にゃ、汝の母は金の揺籃《ゆりかご》と金の著物《きもの》で汝を大事に育つだろ、眠れ眠れわが子」と唄うた。女、母后に告げたはこの男こそこのほど姿を晦《くら》ましたという王子で、王子に見知られずに日が出るまで王宮に還らぬはずだと、母后すなわち城下の鶏を殺し尽くし、一切の窓を黒|絽《ろ》で覆い、その上に金剛石を散らし掛けしめ、日出るも見知らずまだ夜中と思わせた。かくて王子は少女と婚し、目出たく添い遂げ
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