たそうだ。
 イタリア人ジォヴァンニ・バッチスタ・バシレの『イル・ペンタメロネ』の四巻一譚に、ミネカニエロ翁雄鶏を飼う。金入用に及び、これを術士二人に売る。彼ら鶏を持ち去るとて、この鶏の体内に石あり。それを指環に嵌《は》めて佩《お》ぶれば、欲しいと思う物ことごとく得べしと語る。ミネカニエロこれを聞いてその鶏を盗み、殺して石を取り、青年に若返り、金銀荘厳の宮殿に住む。術士化け来って、その指環を衒《かた》り取ると、ミネカニエロまた老人となり、指環を取り戻さんと鼠が住む深穴国に至る。鼠ども術士の指を咬《か》んで環をミ翁に復《かえ》す。ミ翁また若返り、二術士を二|驢《ろ》に化し、自らその一に騎《の》り、後《のち》山より投下す。今一の驢に豕脂《しし》を負わせ、報酬として鼠どもに贈るとある。鶏石(ラテン名ラピルス・アレクトリウス)は鶏の体内にある小石で、豆ほど大きく、水晶の質でこれを佩ぶれば姙婦に宜《よろ》しく、また人をして勇ならしむ。クロトナのミロンは鶏石のおかげで大勇士となった由。一六四八年ボノニア板、アルドロヴァンズスの『ムセウム・メタリクム』四巻五八章に、この石の記載あるが諸説一定せず、蚕
前へ 次へ
全150ページ中96ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
南方 熊楠 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング