《もてあそ》ぶ。われら女人は将軍の前でこそ裸で小便がなるものか、だが汝ら女同前の輩の前で立ち小便しても何の恥かあるべきと。衆人これを聴いて大いに慙《は》じ入り、会飲の後《のち》将軍を取り囲みその舎を焼かんとす。いわく婦女嫁入り前に必ずすべて汝に辱しめらるるはどうも堪忍《かんにん》ならぬ故、汝を焼き殺すべしと。将軍それは無体だ、我辞退したのを汝ら強いて勧めたではないかと、諸人聴き入れず何に致せ焼けて焼けて辛抱が仕切れぬからという事で焼き殺ししまった。ところがこの将軍殺さるる三日前に、仏の大弟子|目連《もくれん》と、舎利弗《しゃりほつ》、およびその五百弟子を供養した功徳で大力鬼神となり、大疫気を放ち無数の人を殺す。城民弱り入り、林中に行きて懺謝し、毎日一人を送って彼に食わせる事に定め、一同|鬮引《くじびき》して当った者の門上に標札を掲げ、家主も男女も中《あた》ったら最後食われに往かしめた。かく次第してついに須抜陀羅長者《すばつだらちょうじゃ》の男児が食わるる番に中った。長者何とも情けない。如来《にょらい》我子を救えと念ずると、仏すなわち来て鬼神殿中に坐った。鬼神、仏に去れというと仏出で去る
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