闘鶏を「三十七羽すぐりてこれを庭籠《にわこ》に入れさせ、天晴《あっぱれ》、この鶏に勝《まさ》りしはあらじと自慢の夕より、憎からぬ人の尋ねたまい、いつよりはしめやかに床の内の首尾気遣いしたまい、明方より前に八《やつ》の鐘ならば夢を惜しまじ、知らせよなど勝手の者に仰せつけるに、勤めながら誠を語る夜は明けやすく、長蝋燭の立つ事はやく、鐘の撞《つ》き出し気の毒、太夫余の事に紛らわせども、大臣《おとど》耳を澄まし、八つ九つの争い、形付かぬ内に三十七羽の大鶏、声々に響き渡れば、申さぬ事かと起ち別れて客は不断の忍び駕籠《かご》を急がせける、名残《なごり》を惜しむに是非もなく、涙に明くるを俟《ま》ちかね、己《おの》れら恋の邪魔をなすは由なしとて、一羽も残さず追い払いぬ。これなどは更にわけの若衆の思い入れにはあらず、情を懸けし甲斐こそあれ」とは、西洋で石田を耕すに比べられ、『四季物語』に「妹脊《いもせ》の道は云々、この一つのほかの色はただ盛りも久しからず、契りの深かるべくもあらぬ事なるを、いい知らずもすける愛なき云々、幼き心つからは何かは思わん。互いに色に染み、情にめでてこそこの道迷いは重くも深くもある
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