をだまそうとは怪《け》しからぬと罵って、子を投げそうだから、城主更に臣下して自身を健《したた》か打たしめると、盲人また今度は一番どこが疼《いた》いかと問うた。心臓と答うると、いよいよ急ぎ投げそうに見える。ここにおいて父やむをえず、板額《はんがく》は門破り、荒木又右衛門は関所を破る、常磐御前とここの城主はわが子のために、大事な操と陰嚢《ふんぐり》破ると、大津絵《おおつえ》どころか痛い目をしてわれとわが手で両丸くり抜いた。さて、今度はどこが一番疼むかと問うに、対《こた》えて歯がひどく疼むというと、コイツは旨い。本当だ「玉抜いてこそ歯もうずくなれ」。汝は今後|世嗣《せいし》を生む事ならず一生楽しみを享《う》け得ぬから、余は満足して死すべしと言いおわらざるに、盲人、城主の子を抱いて塔頭より飛び降り、形も分らぬまで砕け潰れ終った。されば悋気《りんき》深い女房に折檻《せっかん》されたあげくの果てに、去勢を要求された場合には、委細承知は仕《つかまつ》れど、鰻やスッポンと事異なり、婦人方の見るべき料理でない。あちらを向いていなさいと彼方を向かせ、卒然変な音を立て高く号《さけ》び、どこが一番疼いと聞かれ
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