っていたが余は忘れしまった。今もそんな落語が行わるるなら誰か教えてくだされ。
 ストラパロラの件《くだん》の話にある閹鶏《えんけい》、伊語でカッポネ、英語でカポンは食用のため肥やさんとて去勢された鶏だ。本篇はキンダマの講釈から口を切って大喝采を博し居るから、閹鶏のついでに今一つキンダマに関する珍談を申そう。一一四七年頃生まれ七十四歳で歿したギラルズスの『イチネラリウム・カムブリエ』に曰くさ、ウェールスのある城主が、一囚人の睾丸と両眼を抜き去って城中に置くに、その人、砦内の込み入りたる階路をことごとくよく記憶し、自在にその諸部に往来す。一日彼城主の唯一の子を捉え、諸の戸を閉じて高き塔頂に上る、城主諸臣と塔下に走り行き、その子を縦《ゆる》さば望むところを何なりとも叶《かな》えやろうと言うたが、承知せず、城主自ら睾丸を切り去るにあらずんばたちまちその子を塔上より投下すべしと言い張った。何と宥《すす》めても聴き入れぬ故、城主しかる上は余儀なしとて、睾丸を切ったような音を立て、同時に自身も諸臣も声高く叫んだ。その時、盲人城主にどこが痛いかと問い、城主腰が烈しく痛むと答えた。盲《めくら》と思うて人
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