ービー氏の『エストニアの勇士篇』にも諸国|蛟竜《こうりゅう》の誕《はなし》は右様の爬虫類、遠い昔に全滅したものより転訛《てんか》しただろうと言われた。実際鳥と爬虫とその足跡分別しがたいもの多く、『五雑俎』九の画竜三停九似の説にも、爪鷹に似るとあり。『山海経《せんがいきょう》』の図などに見るごとく、竜と鬼とは至って近いもの故、鬼の足、また手を鳥足ごとく想像したと見える。灰を撒いて鬼の足跡を検出する事は、拙文「幽霊に足なしという事」について見られよ。
 鶏の霊験譚は随分あるがただ二、三を挙げよう。『諸社一覧』八に『太神宮神異記』を引いて、豊太閤の時朝鮮人来朝せしに、食用のためとて太神宮にいくらもある鶏を取り寄せ籠《かご》に入れてあまた上せけるに、ほどなく皆返さる。これは朝鮮人の食物に毛をむしりたる鳥、俎《まないた》の上にて生きて起《た》ち上り時を作りけるに因ると。また『三国伝説』を引いて、三島の社に目《め》潰《つぶ》れたる鶏あり。いつも暗ければ時ならず時を作り、朝夕を弁《わきま》えず。風霜に苦しみ、食に乏しく、痩《や》せ衰うるを愍《あわれ》み、ある修行者短冊を書き、鳥の頸に付くるに、たちま
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