答えたは、王は不断|半履《はんぐつ》を穿《は》きて足を見せず、法に禁ぜられ居る時刻に、強いてわれわれを婬し、また母后バトシェバを犯さんとして、従わぬを怒り、ほとんど片裂せんとしたと。諸師父、さては妖怪に極《きま》ったと急いで相集まり、印環と強勢の符※[#「竹かんむり/(金+碌のつくり)」、第3水準1−89−79]《ふろく》を鐫《え》り付けた鎖を、乞食体の真王に渡し、導いて宮に入ると、今まで王位に座しいたアスモデウス大いに叫んで逃れ去り、ソロモン王位に復したと。ヘブリウの異伝には、アスモデウス身を隠してソロモン王の妃に通ぜしに、王その床辺に灰を撒布し、旦《あした》に鶏足ごとき跡を印せるを見て、鬼王の所為《しょい》を認めたりという。この鬼の足、鵞足に似たりとも、鶏足に似たりともいう。
 ドイツの俚説に灰上に家鴨《あひる》や鵞の足形を印すれば、罔両《もうりょう》ありと知るという(タイラー『原始人文篇』二板、二巻一九八頁)。東西洋ともに鬼の指を鳥の足のごとく画くは、過去地質期に人間の先祖が巨大異態の爬虫類と同時に生存して、甚《いた》く怪しみ、怖れた遺風であろう。知人故ウィリヤム・フォーセル・カ
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