の鬼だと。ウィエルス説に、この鬼、地獄で強勢の王たり。牛と人と山羊に類せる頭三つあり。蛇の尾、鵞の足を具え、焔《ほのお》の息を吐き竜に乗りて左右手に旗と矛《ほこ》を持つと(コラン・ド・ブランシー『妖怪辞彙』五板四六頁)、アラビアの古伝にいう、ソロモン王、アスモデウスの印環を奪いこれを囚《とら》う。一日ソロモン秘事をアに問うに、わが鎖を寛《ゆる》くし印環を還さば答うべしというた。ソロモン王その通りせしに、アたちまち王を嚥《の》み、他に一足を駐《と》めて両翅を天まで伸ばし、四百里外に王を吐き飛ばすを知る者なかった。かくてこの鬼、王に化けてその位に居る。ソロモン落魄《らくはく》して、乞食し「説法者たるわれはかつてエルサレムでイスラエルに王たりき」と言い続く、たまたま会議中の師父輩が聞き付けて、阿房《あほ》の言う事は時々変るに、この乞食は同じ事のみ言うから意味ありげだとあって、内臣にこの頃王しばしば汝を見るやと問うと、否《いな》と答えた。由って諸妃を訪うて、その房へ王来る事ありやと尋ねると、ありと答えた。そこで諸妃に注意して、王の足はどんな形かと問うた。けだし鬼の足は鶏の足のようだからだ。諸妃
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