の鶏足山正法寺など、柳田氏の『石神《しゃくじん》問答』に古く鶏を神とした俗より出た名のごとく書いたようだが、全く弥勒と迦葉の仏説に因った号と察する。
 かく東洋では平等無差別の弥勒世界を心長く待つ迦葉と鶏足を縁厚しとし、したがって改造や普選の運動家はこれを徽章《きしょう》に旗標に用いてしかるべき鶏の足も、所変われば品《しな》変わるで、西洋では至って不祥な悪魔の表識とされ居るので面黒い。それは専ら中世盛んに信ぜられた妖鬼アスモデウスの話に基づき、その話はジスレリーの『文界奇観』等にしばしば繰り返され、殊にルサージュの傑作『ジアブル・ボアトー』に依って名高い。婬鬼の迷信は中古まで欧州で深く人心に浸《し》み込み、碩学高僧真面目にこれを禦《ふせ》ぐ法を論ぜしもの少なからず。実体なき鬼が男女に化けて人と交わり、甚だしきは子を孕ませまた子を孕むというので、ローマの開祖ロムルスとレムス、ローマの第六王セルヴィウス・ツリウス、哲学者プラトンやアレキサンダー王、ギリシアの勇将アリストメネス、ローマの名将スキピオ・アフリカヌス、英国の術士メルリン、耶蘇《ヤソ》新教の創立者ルーテルなどいずれも婬鬼を父として
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