文を併《あわ》せ読んだら、諸君は必ずよくもまあたった一つのこの鳥について、かくまで夥しい材料を、同じ噺《はなし》を重出せずに斉整して同時二篇に書き分けたものだ、南方さんは恐らく人間であるまいと驚嘆さるるに相違ない。さて前に釈迦の身長を記しながら「大仏の○○の太さは書き落し」で弥勒の身長を言い忘れたが、弥勒世界の人の身長は十六丈で弥勒仏の身長は三十二丈だ(『仏祖統記』三十)、また昔弥勒と僭号《せんごう》した乱賊あったと記憶のまま書き置いたが、確かに見出した例を挙げると高麗王辛※[#「示+禺」、146−7]八年五月妖民伊金を誅す、伊金は固城の民で自ら弥勒仏と称し、衆を惑わして我能く釈迦仏を呼び寄せる。およそ神祇を祀《まつ》る者、馬牛肉を食う者、人に財を分たぬ者は必ず死ぬ、わが言を信ぜずば三月に至って日月光なし、またわれは草に青い花を咲かせ、木に穀を実《みの》らせ、一度|種《う》えて二度刈り取らしめ能《あた》う。また山川の神をことごとく日本に送り倭賊を擒《とりこ》にすべしなど宣言したので、愚民ども城隍《じょうこう》祠廟《しびょう》の神を撤《す》て去り、伊金を仏ごとく敬い福利を祈る、無頼の徒そ
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