精進して貧苦下賤の衆生を慈愍《じびん》し、恒《つね》にこれを福度し、法のために世に住する摩訶迦葉とはこの人これなりと呵《か》するので一同睾丸縮み上って恐れ入る。一丈八尺の法衣が二指を掩い兼ねるほどの巨人の睾丸だから、一個の直径一|間《けん》は確かにある。そこで大迦葉尊者前述|烏※[#「金+殺」、144−14]国《うせつこく》の出定《しゅつじょう》阿羅漢同様の芸当を演じ、自ら火化する骨を弥勒が拾うて塔婆を立つるという未来記だが、五十六億七千万年後のこと故信ずるにも足らねば疑うも気が利かぬ。ただ熊楠がここに一言するは、壮歳諸国を歴遊した頃は、逢う南中米のスペイン人ごとに余を軽視する事甚だしく、チノ・エス・エル・シウダッド・デル・ハボン(支那は日本の都)といって、日本とは支那の領地の片田舎と心得た者のみだった。かく肩身の狭い日本に生まれながら、その頃の若者はそれぞれ一癖も二癖もあり、吾輩自身も自分がかつてこれほどの事がよく出来たと驚くほどの働きをした。しかるに日本の肩味が広くなればなるほど、これが何で五大国の一かと重ね重ね怪しまるるほど日本人の実価が下ったように思う。孔雀好色あれど鷹に食われ
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