はつ》下垂して肩に被《かか》り面に蒙《かむ》る。王も都人も見物に出懸け香花《こうげ》を供う、この巨人は誰だろうと王が言うと、一僧これは袈裟《けさ》を掛け居るから滅心定《めっしんじょう》に入った阿羅漢だろう、この定に入るに期限あり、※[#「特のへん+廴+聿」、第3水準1−87−71]稚《かんち》(わが邦の寺で敲《たた》き鳴らす雲板、チョウハンの類)の音を聞けば起るとも、日光に触れば起るともいう、さもない間は動かず、定《じょう》の力で身体壊れず、かく久しく断食した人が定を出たら酥油《そゆ》を注いで全身を潤《うるお》し、さて※[#「特のへん+廴+聿」、第3水準1−87−71]稚を鳴らして寤《さ》ますがよいと答えた。その通りして音を立てる事わずかにして羅漢眼を開き、久しく見廻して汝ら何人で形容卑劣なくせに尊い袈裟を被るぞと問うた。かの僧我は比丘だと答うると、しからば我師|迦葉波《かしょうは》如来は今|何処《いずこ》にありやと問う。かの如来は大涅槃《だいねはん》に入りて既に久しと聞いて目を閉じ残念な顔付しまた釈迦如来は世に出たかと問うから、昔生まれて世を導きすでに寂滅《じゃくめつ》されたと答う。
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