》に開封すると、茶の十徳という事あり、何々を指すか名目を聞かせくだされたいとの文言に大いに周章し、種々|血眼《ちまなこ》で探ったが見えず、『沙石集』等に茶の徳を数えた所はあれど十の数に足らず、何か世間にない書物の名を拵《こしら》えて啌《うそ》でも書いてやろうかと思うたが、いずれ先方も十分支度して掛かったはずと惟えばそうもならず。親の仇同前に心掛けて配慮する内、やっと近頃西鶴の『日本永代蔵《にっぽんえいたいぐら》』巻四の四章に「茶の十徳も一度に皆」てふ題目を立てたを見出した。その話は敦賀港の町|外《はず》れで、荷《にな》い茶屋を営業する小橋の利助といえる者、朝茶を売りて大問屋となり、出精するうち悪心起り、越中、越後に若い者を派遣し、人々の呑み棄てる茶殻を京の染屋に入れるとて買い集め、それを飲み茶に雑《まじ》えて人知れず売り、大利を得たが、天の咎《とが》めを免れず、乱心して自分の奸曲を国中に触れ廻り、死後その屍を天火に焼かれ、跡は化物屋敷になったという事で、譚中に茶の十徳の事は一つも見えぬ。惟うに茶人の著《き》る十徳という物あるに因って、茶を植うれば他の作物に十倍増して利益ある由を、この書
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