化」のキャプション付きの図(fig2540_02.png)入る]
[#「第3図 英国のコッケイド二種」のキャプション付きの図(fig2540_03.png)入る]
このシャパロンから出ただろうといわるるコッケイドという物がある。この名もコック(雄鶏)から出たらしく(『大英百科全書』十一板六巻六二二頁)、第三図イの通り鶏冠によく似たから付けた名と見ゆ。これは帽の一方の縁《へり》を高く反《そ》り立たしめる事、昔|流行《はやり》し帽の頂から緒でその縁を引っ張るため縁に穴あり、緒の端に付けたボタンを通して留めた、そのボタンと穴の周囲の環から化け出たというが通説だ(ウェッブ氏の書四四頁)。『大英百科全書』に、英仏その他で政党や軍士が古く形色各別のコッケイドを佩《お》びた事、並びに欧州諸邦の王家それぞれコッケイドの色を異にした例を多く挙げいる。二十九年前の秋、予始めて渡英し王宮辺を徘徊すると、貴族の馬車|絡繹《らくえき》たるその御者が、皆本邦神社の門側に立つ箭大臣《やだいじん》(『旧事紀』に豊磐間《とよいわまど》の命《みこと》、櫛磐間《くしいわまど》の命《みこと》二神をして殿門を守らしむとあり、今の箭大臣はこの二神なるべしと『広益俗説弁』にあれど、『旧事紀』は正書でないから虚説で、その実仏寺の二王門を守るに倣いて作ったのだ)や、百人一首で稚《おさ》な馴染《なじみ》の業平《なりひら》の冠に著けた鍋取《なべとり》によく似た物を黒革作りで高帽の一側に著けあり。中には金魚が落雁《らくがん》を食ったような美少年も多く、南方先生「大内の小さ小舎人《ことねり》ててにや/\」てふ古謡を臆《おも》い起し、寧楽《なら》・平安古宮廷の盛時を眼前に見る心地して、水ばなとともに散り掛かるプラタヌスの下に空腹ながら時ならぬ春を催しやした。かくてあるべきにあらざれば下宿へ還って『用捨箱《ようしゃばこ》』を繙《ひもと》くと「鍋取公家《なべとりくげ》というは卑しめていうにはあらず、老懸《おいかけ》を掛けたるをいえるなり、老懸を俗に鍋取また釜取《かまとり》ともいう」とある。釜取という名からまた先刻見た美少年どもを想い出したのも可笑《おか》しい。「さて今|厨《くりや》にて鍋取を用うる家たまたまあれども草鞋《わらじ》足半《あしなか》の形に作れり、古製は然《しか》らず。小さき扇の形したるが、かの老懸に似たる故に然《し
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