リス・ネメストリヌス)についてマレー人の諺に「猴に裁判を乞う」というがある。一人ありて他の一人の所有地に甘蕉《バナナ》を植え、その果熟するに及び互いにこれを争う。決せずしてブロク猴に裁決を求めると猴承知して二人に果を分つに、一人|対手《あいて》の得分多きに過ぎると苦情いう。猴なるほどこれは多過ぎると荒増《あらま》し引き去って自分で食ってしまうと、今度は他の一人がそれでは自分の方が少な過ぎるという。どうもそうらしいといって猴また多い方から大分せしめる。かくせり合ってついに双方一果も余さぬに及んだ。裁判好きの輩判官に賄賂《わいろ》を重ねて両造ともにからけつとなるを「猴に裁判を乞うた」というのだそうな(スキート著『巫来方術篇』一八七頁)。ジャワのスラバヤでも猴を神とした由、明の黄省曾の『西洋朝貢典録』巻上に出《い》づ。註にいわく、この港の洲に林木茂り、中に長尾猴万余あり、老いて黒き雄猴その長たり。一老番婦これに随う。およそ子なき婦人、酒肴《しゅこう》、花果、飯餌《はんじ》を以て老猴に祷《いの》れば、喜んですなわち食い、衆猴その余りを食う。したがって雌雄二猴あり、前に来って交感し、婦人これを見
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