り、隊後に殿《しんがり》するあり、いずれも用意極めて周到、時々声を張り上げて本隊の凡衆を整え敵近づくを告ぐ、その折々に随って音色確かに異なり、聞き馴れた人は何事を知らせ居ると判るよう覚ゆ。けだしその本隊は牝猴と事馴れぬ牡と少弱輩より成り、母は児を背負う、先達猴の威容堂々と進むに打って変り、本隊の猴ども不規律甚だしく、千鳥足で囀《さえず》り散らし何の考えもなくただただ斥候の用心深きを憑《たの》んで行くものと見ゆ、若猴数疋果を採らんとて後《おく》るれば殿士来って追い進ましむ。母猴は子を乳せんとてちょっと立ち止まり、また時を浪費せじと食事しつつ毛を理《おさ》める。他の若き牝猴は嫉妬よりか嘲笑的に眺められた返報にか、他の牝猴に醜き口を突き向け、甚だしき怒声を発してその脛《すね》や尾を牽《ひ》き、また臀《しり》を咬むと相手またこれに返報し、姫御前《ひめごぜ》に不似合の大立ち廻りを演ずるを酋長ら吠《ほ》え飛ばして鎮静す。一声警を告ぐれば一同身構えして立ち止まり、調子異なる他の一声を聞いて進み始む。既に畑に到れば斥候ら高地に上って四望し、その他はすこぶる疾《と》く糧を集め、頬嚢《きょうのう》に溢るる
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