らしく、朝鮮とアイヌの辞書があいにく座右にないからそれは抜きとして、ワリス氏が南洋で集めた猴の諸名を見るも、わずかにアルカ(モレラ語)、ルア(サパルア語)、ルカ(テルチ語)位がやや邦名サルに近きを知るのみ。マレイ語にルサあるが鹿を意味す。『翻訳名義集』に※[#「けものへん+彌」、第3水準1−87−82]猴《びこう》の梵名摩斯※[#「咤−宀」、第3水準1−14−85]あるいは※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]迦※[#「咤−宀」、第3水準1−14−85]とある。予が蔵する二、三の梵語彙を通覧するに、後者は猴の梵名マルカタと分るが摩斯※[#「咤−宀」、第3水準1−14−85]らしい猴の梵名は一向見えぬ。しかるに和歌に猴を詠む時もっとも多く用いるマシラなる名は古来摩斯※[#「咤−宀」、第3水準1−14−85]の音に由ると伝うるはいぶかし。ところが妙な事は十七世紀の仏人タヴェルニエーの『印度紀行』に、シエキセラに塔ありてインド中最大なるものの一なり、これに附属する猴飼い場ありて、この地の猴をも近国より来る猴をも収容し商人輩に供餉《ぐしょう》す。この塔を
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