水準1−87−78]※[#「けものへん+柔」、第4水準2−80−44]《えんどう》下り飲み百臂相|聯《つら》なる〉とあるを調合して、和漢に多き猿猴月を捉えんとする図が出来たのであろう。『法句譬喩経』三にいわく、愚なる猴王五百猴を率いて大海辺に至り、風が沫《あわ》を吹き聚《あつ》めて高さ数百丈となるを見、海中に雪山あり、そのうち快楽、甘果|恣《ほしいまま》に口にすと聞いたが今日始めて見る、われまず往き視て果して楽しくば還らじ、楽しからずば来って汝らに告ぐべしとて、聚沫《しゅうまつ》中に跳り込んで死んだと知らぬ猿ども、これはよほど楽しい所ゆえ留まって還らずと合点し、一々飛び入りて溺死したと。熱地の猴故雪山を楽土と心得たのだ。猿が猴智慧でその身を喪《うしの》うた例は支那にもあり。『北史』に高昂の母が児を浴せしめんと沸かした湯を婢が置き去った後、猿が綱を外《はず》し児を鼎《てい》中に投じ爛《ただ》れ死なしめたので、母が薪を村外に積ましめ、その婢と猿を焚殺したとある(『類函』四三一)。
 一九〇八年板英国科学士会員ペッチグリウの『造化の意匠』巻二に、猴の心性について汎論した一章あって煩と簡との中
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