も》の草紙』赤き物猴の尻、『犬子集』昔々《むかしむかし》時雨《しぐれ》や染めし猿の尻、また丹前能日高川の故事を物語るところになんぼう畏《おそ》ろしき物語にて候、猿が尻は真赤なと語りぬとあり。これら皆幼稚の者の昔々を語る趣なり。猿は赤いといわんためまた猿と蟹の古話もあればなり、赤いとはまづかくと言うの訛りたるなり。まづかくは真如これなり、それを丹心丹誠の丹の意にまっかいといえるは偽りなき事なるを、後にその詞を戯れて猿の尻など言い添えて、ついに真ならぬようの事となって今はまっかな啌《うそ》という、これは疑いもなく明白なるをまっかというなれど、実は移りて意の表裏したるなるべしと見ゆ。これで予も猿の尻は真赤いな。[#地から2字上げ](大正九年二月、『太陽』二六ノ二)

     (二) 性質

 概言中に述べた平猴に似た物が明の黄省曾の『西洋朝貢典録』中と『淵鑑類函』二三四に記載さる。その文異同ある故|両《ふた》つながら参酌して書くと、〈阿魯《あろ》国一名唖魯、西南の海中にあり、その国南は大山、北は大海、西は蘇門荅剌《スマトラ》国界、国語婚喪等の事|爪哇《ジャワ》と相同じ、山に飛虎を出す、その
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