った通り、読み切りのつもりだったが、人はその乏しきを憾《うら》み、われはその多きに苦しむ。積年集めた猴話の材料牛に汗すべく、いずれあやめと引き煩いながら書き続くる内、概言の第一章のみでも、かように長くなったから、第二章以下は改めて続出とし、ここに元本章の尻纏《しりまと》めに猴の尻の珍談を申し上げよう。
アリストテレスが夙《はや》く猴を有尾、無尾、狗頭の三類に分ったは当時に取っての大出来で、無尾は猩々、猿猴等、日本の猴等は有尾、さて狗頭猴はアラビアとアフリカに限り生ずる猛性の猴だが、智慧すこぶる深く、古エジプトで神と崇められた。人真似は猴の通性で、『雑譬喩経』に猴が僧の坐禅の真似して樹から落ちて死んだ咄《はなし》あり。上杉景勝平素笑わなんだが猴が大名の擬《まね》して烏帽子《えぼし》を戴《いただ》くを見て吹き出したといい、加藤清正は猴が『論語』を註するつもりで塗汚すを見、汝も聖賢を慕うかと笑うた由。パーキンスの『アビシニア住記』一にアラブ人酒で酔わせて狗頭猴を捕える由言い、氏一日読書する側にこの猴坐して蠅《はえ》を捉え、またその肩に上りて入墨《いれずみ》した紋を拾わんと力《つと》めおり、
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