ばかり詰め込んだ後多くの穂を脇に挟《はさ》む。予しばしば観《み》しところ斥候は始終番し続け少しも自ら集めず、因って退陣事終って一同の所獲を頒《わか》つと察す。彼らまた水を求むるに敏《さと》く、沙中水もっとも多き所を速やかに発見し、手で沙《すな》を掘る事人のごとく、水深けば相互交代す、その住居は岩の拆《さ》けた間にあって雨に打たれず他の諸動物が近づき得ざる高処においてす。ただし豹はほとんど狗頭猴ほどよく攀じ登ればその大敵で、時にこれを襲うあれば大叫喚を起す、土人いわく、豹は成長せる猴を襲う事稀に時々児猿を捉うと。この猴力強く動作|捷《はや》く牙固ければ、敵として極めて懼《おそ》るべきも、幸いにその働き自身を護るに止まり進んで他を撃たず、その力ほど闘志多かったら、二、三百猴一組になって来るが常事ゆえ、土人の外出は至難で小童の代りに武装した大人隊に畑を番せしめにゃならぬはずだ。しかし予はしばしばその犬に立ち掛かるを目撃し、また路上や林中で一人歩く婦女を撃つ由を聞いた。一度女人が狗頭猴に厳しく襲われ、幸いに行客に救われしも数日後死んだと聞いた事あると。[#地から2字上げ](大正九年五月、『太陽』二六ノ五)
(三) 民俗
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さきに猴酒の事海外に例あるを聞かぬと書いたは千慮の一失で、『嬉遊笑覧』十上に『秋坪新語』忠州山州黒猿|善《よ》く酒を醸《かも》す事を載す。※[#「けものへん+胡」、72−4]※[#「けものへん+孫」、72−4]酒といえり、みさごずしに対すべしとあれば海外またその話ありだ。なお念のため六月発行『ノーツ・エンド・キーリス』十二輯六巻二九五頁へ和漢のほかに猴酒記事の例ありやと問いを出し置いたが、博識自慢の読者どもから今にこれというほどの答えが出ず。唯一のエフ・ゴルドン・ロー氏の教示に、猴酒は一向聞かぬが英語で猴の麪包《パン》(モンキース・ブレッド)というのがある。バオバブ樹の実を指《さ》す、またピーター・シンブルの話に猴吸い(サッキング・ゼ・モンキー)といえるは、椰子《やし》を割って汁を去りその跡へラム酒を入れて呑むをもいえば、樽《たる》に藁《わら》を挿《さ》し込んで酒を引き垂らすをもいう。俗にこれを猴のポンプとも名づくとあってまず猴が酒を作る話は日本と支那のほかにないらしい。件《くだん》のバオバブ一名猴の麪包の木はマレー群島の
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