って来り、車を駐《と》めて彼を穀賊と呼び、汝はどうしてここに在るかと問うと、われは人の穀を食うたからここへ置かれたと答え、久しく話して黄色連は別れ去った。主人穀賊に彼は誰ぞと問うと、彼こそ金宝の精で、この西三百余歩に大樹あり、その下に石の甕《かめ》を埋め、黄金中に満ち居る、その精だといった。主人数十人を将《ひき》い、往き掘りてその金を得、引き返して穀賊の前へ叩頭《こうとう》し、何とか報恩供養したいから拙宅へ二度入りをと白《もう》すと、穀賊、さてこそと言わぬばかりに答うらく、前に君の穀を食いながら姓字を語らなんだは、君にこの金を得せしめて報いたかったからだ。今既に事済んだ上は転じて福を天下に行うべし、住《とど》まる事|罷《まか》りならずと言い終って忽然見えずなったとある。『阿育王譬喩経』には大長者が窖《あな》に穀千斛を蔵し、後これを出すに穀はなくて三歳ばかりの一小児あり、言語せぬ故何やら分らず。大道辺に置いて行人に尋ぬれど識《し》る者なし。しかるところ、黄色の衣を着、黄牛に車を牽かせて乗り、従者ことごとく黄色な人が通り掛かり、小児を見るとすなわち穀賊何故ここに坐し居るかと問うた。この小児
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