く、もしこの国に年若く姿貌《すがたかたち》端正にして智慮に富み、足で歩まず、馬に騎《の》らず、車に乗らず、日中でなく、夜中でなく、月の前半でも後半でもなく、衣を著《き》ず、また裸にもあらず、かくてシグツナの王宮に詣《いた》り得る美なる素女《きむすめ》あらば、その女こそ目前差し迫った大禍難を無事に避くべき妙計を出し得べけれと。
 爾時《ときに》ヴェンガイン村に一素女あり、ジサと名づく、貞操堅固、儀容挺特、挙世無双だった。数千の無辜《むこ》の民を助けたさに左思右考して神託通りにこの難題を見事|遣《や》って退《の》けた。
 ジサ女、年中何の月にも属せず、太陽天に停《とど》まって動かぬと信ぜらるる日を択《えら》び、身に罟《あみ》を被《おお》ったのみ故、裸とも著衣とも言えぬ。それから一足を橇《そり》に、一足を山羊《やぎ》の背に載せて走らせ、満月の昏時《くれどき》、明とも暗とも付かぬうちに王宮に到った。王大いに悦び救済の法を諮《はから》うと、ジサそれは容易な事、国内に荒野が多い、それへ人民の一部分を移して開墾しなさいと勧め、王これに従って見事に凶難を免れた。この王も年若くて美男だったから、相談たち
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