う。鮓答は胡語ジャダーの音訳で、今日もアルタイ地方に鮓答師《ヤダチ》てふ術士あり。能くこの石を用いて天気を制す。この石不断風強く吹く狭き山谷にあり。人能く一切の所有物を棄て始めて手に入れ得、故にこの石を使う者は孤寒素貧かつ無妻という(一九一四年版チャプリカの『西伯利原住人《アボリジナル・サイベリア》』二〇〇頁)。突厥《トルキ》や蒙古の軍にしばしば鮓答師《ヤダチ》が顕用された例は、ユールの『マルコ・ポロの書』一版一巻六一章に出《い》づ。胡元朝の遺民|陶宗儀《とうそうぎ》の『輟耕録』四に、往々蒙古人雨を祷《いの》るを見るに、支那の方士が旗剣符訣等を用うると異なり、ただ石子数枚を浄水に浸し呪を持《も》て石子を淘《ゆり》玩《まわ》すと、やや久しくして雨ふる、その石を鮓答といい、諸獣の腹にあれど、牛馬に生ずるのが最も妙だと見ゆ。日本で馬糞石など俗称し、稀に馬糞中に見出す物で予も数個持ち居る。『松屋筆記』に引ける『蓬※[#「窗/心」、第3水準1−89−54]日録』に、〈およそ兵事を達するには、急に能く風雨を致し、囲を突きて走り、けだし赭丹《しゃたん》を有《も》って身に随《つ》く、赭丹は馬腹中に産す
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