」、第3水準1−84−84]《かた》ぐるとて一つ取り外《はず》すと、聴衆一同無上の不浄に汚されたごとく争うて海に入るを睹《み》た。またアラビヤ人集まった処で一人ローランに仏人能く屁を怺《こら》えるの徳ありやと問うた。無理に怺えてはすこぶる身を害すれど、放《ひ》って人に聞かしむるを極めて無礼とす、しかしそれがため終身醜名を負うような事なしと答うると、斉《ひと》しく一同逃げ去った。問いを発した本人は暫く茫然自失の様子、さて一語を出さず突然起って奔りおわり爾後見た事なしと。ロ氏のこの談で察すると、当時仏人は音さえ立てずば放って悔いなんだらしい。いかさま屁の事は臭きより後にする道理で、予はこの方とんと不得手故詳しく調べ置かなんだが、ロ氏に後るるおよそ百年ジュフールの説に、古ローマ人は盛礼と祭典の集会においてのみ屁を制禁したが、その他の場所また殊に食時これを放るを少しも咎めず、ただしアプレウスの書に無花果《いちじく》の一種能く屁放らしむるを婦女避けて食わずとあれば、婦女はなるべく扣《ひか》え慎んだらしいとあって、古ローマ人は放屁に関して吾輩と全く別の考えを懐《いだ》いたのだと断じ居る。されば他事
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