馬を一人の物と思い、その人に価を払い済ませて後、その馬の耳とか尾とかの持ち主現われ、その持ち部の価を請求されて払わず、すったもんだと争い、地方官へ訴えても土地の風習是非なしとて取り上げず、甚《いと》迷惑する事あり。また住地近辺の聯合《れんごう》諸部の酋長どもと懇意な中でその公許を得たのは格別、さもなくて牝馬の躯の一、二分をだに自分方へ保留せず全部を売却した者は、到る処人に嫌われ暗殺の虞《おそれ》さえある故、重罪犯者同様その土地を逐電するほかに遁《に》げ路ない。牡馬を買うは牝馬ほど難からねど、なお如上の作法を踏まねばならぬ。以上は血統純粋な駿馬を購《か》う場合の事で、劣等の馬を買うは容易な事である。
 右のピエロッチの文中、牝馬が殊に能く人の災難を予知し、微細の蹤《あしあと》を認め音響を聞き分くるといえるは、牝犬が牡よりは細心甚だしく、盗人|防禦《ぼうぎょ》にもっとも適すると同義らしいが、牡馬もまたかかる能あるはほぼ前に述べた。俗語に一事が万事と言う。推理の正確ならぬ民は一能ある者は万能ありと思うが常で、右様の能が馬にあるより、馬の関知せぬ事までも馬に問うようになり、馬占《ヒッポマンシー
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