段あり(近年まである学者どもは蟻は香を出して意を通じ言語に代うと説いた)。かく行いかく言った東洋人には、遥かに西洋人に優れた香の知識があったので、自分らには解らぬ事を下等とか野鄙《やひ》とか卑蔑するのが今日西洋の文化或る点において退却を始めおる徴《しるし》じゃ。しかし以前はさっぱり取るに足らぬように言った日本の三絃を、音楽の最も発達した一つと認め、日本の香道をも彼らに解らぬながら立派な美術と見る論者も西洋に出でおるから、皆まで阿房《あほ》でないらしい(『大英百科全書《エンサイクロペジア・ブリタンニカ》』十一版、美術と音楽の条参照)。
 日本人、上古専ら水で洗浴して身を潔《きよ》めたが、香水薫香等で荘厳した事はないらしく――実は清浄の点から言えばそれがよいので、中古の欧人などは身を露《あら》わすを大罪とし、むやみに香類で垢《あか》を増すのみ。洗浴を少しもせず、聖僧の伝記に浴せざる年数を記してその多きを尊んだくらい故、三世紀の疥癬《かいせん》大流行など自然の成り行きで、シェテレやパルセヴァルやトリスタンやイソールト、その世に称揚された美人好男いずれも千載一洗せぬ乞丐《こじき》的の人物だった
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