と啌《うそ》のような話だが、ロメーンズの『|動物の智慧《アニマルインテリジェンス》』に米国のクレイポール教授が『ネーチュール』雑誌へ通信した話を出す。その友人トロント近き農家に働くが、主人の妻の持ち馬全く免役で紳士生活をさせられているものあり、数年前この女橋を踏みはずして深水へ落ち込んだのを、近い野で草食いいた馬が後《おく》れず走り行きて銜え揚げて人助の到るを俟《ま》った御礼にかくのごとしと。それから随分怪しいが馬が自殺や殉死をした話も少なからぬ。明の鍾同太子の事で景帝を諫《いさ》め杖殺《じょうさつ》さる。〈同の上疏するや、馬を策《むちう》ち出《い》づ、馬地に伏して起たず、同咆して曰く、われ死を畏れず、爾《なんじ》奚《なに》する者ぞ、馬なお盤辟《ばんぺき》再四して行く、同死して馬長号数声してまた死す〉(『大清一統志』一九九)。プリニウスいわく馬主人を喪えば流涕するあり、ニコメデス王殺された時その馬絶食自滅し、アンチオクス王殺されて敵人王の馬を取り騎りて凱旋せしにその馬|瞋《いか》りて断崖より身を投げ落し騎った者とともに死んだと。
 ロメーンズはその友の持ち馬性悪く、毛を梳《す》かるる際
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