拠ったものと見える。
 さて智馬と同類ながら譚が大層誇大されたのが、仏経にしばしば出る馬宝の話だ。転輪聖王《てんりんじょうおう》世に出でて四天下を統一する時、七つの宝|自《おの》ずから現われその所有となる。七宝とはまず女宝とて、膚《はだえ》艶に辞《ことば》潔く妙相|奇挺《きてい》黒白短なく、肥痩所を得、才色双絶で志性金剛石ほど堅い上に、何でも夫の意の向うままになり、多く男子を産み、種姓劣らず、好んで善人を愛し、夫が余女と娯《たの》しむ時も妬まぬ、この五つの徳あり。また多言せず、邪見せず、夫の不在に心を動かさぬ、三つの大勝あり。さて夫が死ねば同時に死んでしまうそうだから、後家にして他人へかかる美婦を取らるる心配も入らぬ重宝千万の女だ。それから珠宝、輪宝、象宝、馬宝、主兵宝、長者宝という順序だが、女宝の講釈ほどありがたからぬから一々弁ぜず、馬宝だけの説明を為《な》さんに、これは諸経に紺青色の馬というが、『大薩遮尼乾子受記経』にのみ白馬として居る。日に閻浮提《えんぶだい》洲を三度|匝《めぐ》って疲れず王の念《おも》うままになって毎《いつ》もその意に称《かな》うという(『正法念処経』二、『法集
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