この物疾く走る。穴に入りて尾のみ外に残るをいかな大力士が引いても出ず。やむをえず鉄器もてその穴を揺り広げやっと捉え得とあるも似た事だが、蜥蜴の腹の麟板は、物に鈎《かか》る端を具えぬから、此奴《こやつ》はその代り四足に力を込めてその爪で穴中の物に鈎り着くのであろう。この通りの拙文を訳してロンドンで出したるに対し、一英人いわく、日本人は皆一人で蛇の尾を捉えて引き出し得ぬらしいが、自分はかつてインドで英人単身ほとんど八フィート長の蛇を引き出すを見たと。ブリドー大佐の説には、往年インドで聞いたは、土着の英人浴中壁の排水孔《みずぬきあな》より入り来った蛇がその孔より出で去らんとする尾を捉え引いたが蛇努力して遁《のが》れ行った。翌日また来れど去るに臨み、まず尾を孔に入れ、かの人を見詰めながら身を逆さまに却退したとありしを見れば、剛力の人がいっそ伝説など知らずにむやみに行けば引き出し得るも、常人にはちょっとむつかしい芸当らしい。こんな事から敷衍した物か、蛇の尻に入るは多くは烏蛇とて小さくて黒色なり。好んで人の尻穴に入るにその人さらに覚えずとぞ。この蛇穴に少しばかり首をさし入れたらんには、いかに引き出
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