を開くはず、その節蛇王の前に供うる天の山羊乳を盛った皿に麪麭《パン》一片を浸し、逃げ出す先に自分は口に入れ得たら、夜中の秘密を知り得ると教えた。やがて尊者の縁日すなわち四月二十五日が昏れると、件《くだん》の若者方士が示した広い沢へ往くと、多くの小山のほか何にも見えず、夜半に一小山より光がさした。これ蛇王の信号で、今まで多くの小山と現われて動かず伏しいた無数の蛇ども、皆その方へ進み行き、小山ついに団結して乾草|堆《たい》の大きさに積み累《かさ》なった。若者恐る恐る抜き足して近寄り見れば、数千の蛇が金冠を戴いた大蛇を囲み聚《あつ》まりいた。若者血|凝《かたま》り毛|竪《た》つまで怖ろしかったが、思い切って蛇群中に割り込むと、蛇ども怒り嘯《うそぶ》き、口を開いて咬まんとすれど、身々密に相《あい》纏《まと》うて動作自在ならず、かれこれ暇取る内に、若者蛇王の前の乳皿に麪麭《パン》を浸し、速やかに口に含んで馳《か》け出した。衆蛇|追躡《ついじょう》余りに急だったから、彼ついに絶え入った。旭の光身に当って、翌旦蘇り見れば、かの沢を距つる既に四、五マイル。早《はや》何の危険もないから、終日眠って心身を
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