安め、次夜果して望むところの霊験を得たが、試しのため林中に入るとたちまち浴場が現われ、ただ見る金の腰掛けと、銀の垢磨《あかす》り、銀の盥《たらい》が美々しく列《つら》なりあった。小杜《こもり》の蔭に潜んで覗《のぞ》きいると、暫時して妍華超絶|止《ただ》に別嬪どころでなく、真に神品たる処女、多人数諸方より来り集い、全く露形して皎月《こうげつ》下に身を洗う。正にこれ巫女廟の花は夢の裡《うち》に残り、昭君村の柳は雨のほかに疏《おろそ》かなる心地して、かの者餓鷹の※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]を見るがごとく、ただ就いてこれ食いおわらんと要したが、また思い返していずれ菖蒲《あやめ》と引き煩い、かれこれと計較《くらべみ》る内、惜しきは姿、東方明けなんとすると、一同たちまち消え失せた。これら美女、実は草野《かやの》の女王の娘どもで、各森林の精たり。その後今一度彼らの艶容を窺わんと、夜々脚を林中に運べど、処女も浴場も再び現われず、あてもない恋の焔《ほのお》に焦れ死んだ。されば忘れても夜中の秘密研究など志すべきでない。
 それから『想山著聞奇集』に、武州で捕えた白蛇の尾尖《おさき》に玉ありた
前へ 次へ
全137ページ中65ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
南方 熊楠 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング