から、これを仙谷と号《な》づけた。遠方から来て昇天を望む者、この林下にさえ往けば飛び去る。しかるにこれを疑う者あり、石を自分の身に繋《つな》ぎ、犬を牽《ひ》いて谷に入ると犬が飛び去った。さては妖邪の気が吸うのだと感付き、若少者《わかもの》数百人を募り捜索して、長数十丈なる一大|蟒蛇《うわばみ》を見出し殺した(『淵鑑類函』四三九)。
 プリニウスいわく、ポンツスのリンダクス河辺にある蛇は、その上を飛ぶ鳥を取り呑む、鳥がどれほど高く速く飛んでも必ず捉わると。『サミュール・ペピスの日記』一六六一年二月四日の条に、記者ある人より聞いたは、英国ランカシャーの荒野に大蛇あり、雲雀《ひばり》が高く舞い上がるを見て、その真下まで這い行き口を擡《もた》げて毒を吐かば、雲雀たちまち旋《かえ》り堕ちて蛇口に入り、餌食となると書いた。コラン・ド・プランシーの『妖怪辞彙《ジクチョネーランフェルナル》』五版四一三頁に、ペンシルヴァニアの黒蛇、樹下に臥して上なる鳥や栗鼠《りす》を睥むと、たちまち落ちてその口に入るといい、サンゼルマンの『緬甸帝国誌《ゼ・バーミース・エンパイヤー》』に、ビルマ人は、蛇が諸動物を魅して口
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