者も、多分こんな性の坊主だろう。
 女の方へ脱線ばかりすると方付《かたづ》かぬから、また蛇の方へ懸るとしよう。まず蛇の魅力の豪い奴から始める。『酉陽雑俎』の十に、〈蘇都瑟匿国西北に蛇磧あり、南北蛇原五百余里、中間あまねき地に、毒気烟のごとくして飛鳥地に墜つ、蛇因って呑み食う〉、これは地より毒烟上りて、鳥を毒殺するその屍を蛇が食うのか、蛇がその磧《すなはら》一面に群居し、毒気を吐きて鳥を堕《おと》し食うのか判らぬ。蛇が物を魅するというは、普通に邪視を以て睥《にら》み詰めると、虫や鳥などが精神|恍惚《とぼけ》て逃ぐる能わず、蛇に近づき来り、もしくは蛇に自在に近づかれて、その口に入るをいうので、鰻が蛇に睥まれて、頭を蛇の方へ向け游《およ》ぎ、少しも逃げ出す能わなんだ例さえ記されある。『予章記』に、呉猛が殺せし大蛇は、長《たけ》十余丈で道を過ぐる者を、気で吸い取り呑んだので、行旅《たびびと》断絶した。『博物志』に、天門山に大巌壁あり、直上数千|仭《じん》、草木|交《こもご》も連なり雲霧|掩蔽《えんぺい》す。その下の細道を行く人、たちまち林の表へ飛び上がる事幾人と知れず。仙となりて昇天するようだ
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