も刀杖の持ち合せない時、これに向って汝は卑怯者だ逃げ去る事はならぬぞといい置き、家に還って鋤《すき》鍬《くわ》を持ち行かば蝮ちゃんと元のままに待って居る。竿でその頭を※[#「てへん+孑」、234−14]《せせ》るにかつて逃げ去らず。徐々《そろそろ》と身を縮め肥えてわずかに五、六寸となって跳び懸かるその頭を拗《ひし》げば死すとある。蝮は蛇ほど速く逃げ去らぬもの故、人に詞《ことば》懸けられてその人が刀杖を取りに往く間待って居るなど言い出したのだ。
 英国や米国南部やジャマイカでは、蛇をいかほど打ち拗《ひし》ぐとも尾依然動きて生命あるを示し、日没して後やっと死ぬと信ず(『ノーツ・エンド・キーリス』十輯一巻二五四頁)。英のリンコルンシャーで伝うるは、蛇切れたら切片が種々動き廻り切り口と切り口と逢わば継ぎ合うて蘇る。それ故蛇を殺すにはなるべく多くの細片に切り※[#「坐+りっとう」、第3水準1−14−62]《きざ》めばことごとく継ぎ合うに時が掛かる、その内に日が没《い》るから死んでしまうそうじゃ。日向《ひゅうが》の俗信に、新死《しんし》の蛇の死骸に馬糞と小便を掛けると蘇ると(『郷』四の五五五)。右
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