リンコルンシャーの伝は欧州支那ビルマ米国に産する蛇状蜥蜴《オフィオサウルス》を蛇と心得て言い出したのだ。外貌甚だ蛇に似た物だが実は蜥蜴が退化して前脚を失い後脚わずかに二小刺となりいる。すべてこんな蜥蜴が退化してほとんどまたは全く四脚を失うたものと真の蛇を見分けるには、無脚蜥蜴の瞼《まぶた》は動くが蛇のは(少数の例外を除いて)動かぬ。蛇の下齶の前《さき》にちょっと欠けた所があって口を閉じながらそこから舌を出し得るが蜥蜴の口は開かねば舌を出し得ぬ。また蛇の腹は横に広くて脇から脇へ続いて大きな鱗一行(稀に二行)を被るに蜥蜴の腹は鱗七、八行またそれより少なくとも一行では済まぬ。それから蜥蜴の腹を逆《さか》さに撫でるに滑らかなれど、蛇の腹を逆撫ですると鱗の下端が指に鈎《かか》る。また無脚蜥蜴は蛇の速やかに走るに似ず行歩甚だ鈍い。さて蛇状蜥蜴《オフィオサウルス》はすべて三種あるが皆尾が体より遥かに長くその区分がちょっとむつかしい。その尾に夥《おびただ》しく節あり、驚く時非常な力で尾肉を固く縮める故ちょっと触《さわ》れば二、三片に断《き》れながら跳《おど》り廻る。これは蜥蜴の尾にも能く見るところで切
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