とく悪くて上帝を殺そうとし、上帝怒って不死性質を人より奪い蛇蜥蜴甲虫などに与えてよりこれらいずれも皮脱で若返ると。フレザーの『|不死の信念《ゼ・ビリーフ・イン・インモータリチー》』(一九一三年版)一に、こんな例を夥しく挙げて昔|彼輩《かれら》と人と死なざるよう競争の末人敗れて必ず死ぬと定ったと信ずるが普通だと論じた。この類の信念から生じたものか、本邦で蛇の脱皮《ぬけがら》で湯を使えば膚《はだ》光沢を生ずと信じ、『和漢三才図会』に雨に濡れざる蛇脱《へびのかわ》の黒焼を油で煉《ね》って禿頭《はげあたま》に塗らば毛髪を生ずといい、オエンの『老兎巫蠱篇《オールド・ラビット・ゼ・ヴーズー》』に蛇卵や蛇脂が老女を若返らすと載せ、『絵本太閤記』に淀君妖僧日瞬をして秘法を修せしめ、己が内股の肉を大蛇の肉と入れ替えた。それより艶容|匹《たぐい》なく姿色衰えず淫心しきりに生じて制すべからず。ために内寵多しとあるは作事ながら多少の根柢はあるなるべし。本邦で蛇は一通りの殺しようで死に切らぬ故執念深いという。これに反し蝮は強き一打ちで死ぬ。『和漢三才図会』に蝮甚だ勇悍《ゆうかん》なり、農夫これを見付けて殺そうに
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