ずなく、頭痛が治った意趣返しをやらにゃならぬと怪《け》しからぬ考えを起し、蛇を尋ねておかげで己の病は治ったが頃日《このごろ》忘れいた蛇の頭痛療法を憶《おも》い出したと語り、蛇に懇請されてそれなら教えよう、造作もない事だ、汝が頭痛したら官道に往って全く総身を伸ばして暫《しばら》く居れば輙《たやす》く治ると告げた。蛇教えのままに身を伸ばして官道に横たわり居ると、棒持った人が来て蛇を見付けると同時に烈しくその頭を打ったので、蛇の頭痛はまるで何処《どこか》へ飛んでしまった。蛇は犬の奸計とは気付かず爾来頭が痛むごとに律義に犬の訓《おし》え通り官道へ横たわり行く。つまり頭が打ち砕かれたら死んでしまうから療治も入《い》らず。幸い身を以て遁《のが》れ得たら太《ひど》く驚いて何処かへ頭痛が散ってしまうのである(一九一五年版ガスター著『羅馬尼《ルーマニア》禽獣譚』)。コラン・ド・プランシーの『妖怪字彙《ジクショネーランフェルナル》』四版四一四頁には、欧州に蛇が蛻《かわぬ》ぐごとに若くなり決して死なぬと信ずる人あるという。英領ギヤナのアラワク人の談に、往時上帝地に降《くだ》って人を視察した、しかるに人ことご
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