て兇行するものをもとミヅチと呼びしが、後世その変形たる河童が専らミヅシの名を擅《ほしいまま》にし、御本体の蛇は池の主淵の主で通れどミヅチの称を失うたらしい。かく蛇を霊怪《ふしぎ》視した号《な》なるミヅチを、十二支の巳《し》に当て略してミと呼んだは同じく十二支の子《し》をネズミの略ネ、卯《ぼう》を兎の略ウで呼ぶに等し。また『和名抄』に蛇《じゃ》和名《わみょう》倍美《へみ》、蝮《ふく》和名《わみょう》波美《はみ》とあれば蛇類の最も古い総称がミで、宣長の説にツチは尊称だそうだから、ミヅチは蛇の主の義ちょうど支那で蟒《うわばみ》を王蛇と呼ぶ(『爾雅』)と同例だろう。さてグベルナチスが動物伝説のもっとも広く行き渡ったは蛇話だといったごとく、現存の蛇が千六百余種あり。寒帯地とニューゼーランドハワイ等少数の島を除き諸方の原野山林沼沢湖海雑多の場所に棲み大小形色動作習性各同じからず、中には劇毒無類で人畜に大難を蒙《こうむ》らするもあれば無毒ながら丸呑みと来る奴も多く古来人類の歴史に関係甚だ深い。故にこれに関する民族と伝説は無尽蔵でこれを概要して規律正しく叙《の》ぶるはとても拙筆では出来ぬ。だが昨年三月
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