りなら十二支に十二の動物を配る事戦国時既に支那に存したらしく、『淮南子』に〈巳の日山中に寡人と称せるは、社中の蛇なり〉とある、蛇を以て巳に当てたのも前漢以前から行われた事だろうか。すべて蛇類は好んで水に近づきまたこれに入る。沙漠無水の地に長じた蛇すら能く水を泳ぎ、インドで崇拝さるる帽蛇《コブラ》は井にも入れば遠く船を追うて海に出る事もあり。されば諸国でいわゆる水怪の多くは水中また水辺に棲《す》む蛇である(バルフォール『印度事彙』蛇の条、テンネント『錫蘭博物志《ナチュラル・ヒストリ・オヴ・セイロン》』九章、グベルナチス『動物譚原《ゾーロジカル・ミソロジー》』二)。わが邦でも水辺に住んで人に怖れらるる諸蛇を水の主というほどの意《こころ》でミヅチと呼んだらしくそれに蛟※[#「虫+罔」、222−12]※[#「虫+礼のつくり」、第3水準1−91−50]等の漢字を充《あ》てたはこれらも各支那の水怪の号《な》故だ。現今ミヅシ(加《かが》能《のと》)、メドチ(南部)、ミンツチ(蝦夷)など呼ぶは河童なれど、最上川と佐渡の水蛇|能《よ》く人を殺すといえば(『善庵随筆』)、支那の蛟同様水の主たる蛇が人に化け
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