し」とあるばかりだそうな。熊楠ウェブストルの字書を見るとルジクラス(可笑《おかし》い)の例としてド・クインシーの語を引く。いわくファン・トロールの書に「アイスランドの蛇―なし」これだけを一章として居ると。前年一英人ファン・トロールの書をデンマークより取り寄せ仔細に穿鑿《せんさく》せしもかかる章を見ざりしと聞く。ド・クインシー例の変態精神から心得違うてかかる無実を言い出したなるべし。

     身の大きさ

 ベーツの『|亜馬孫河畔の博物学者《ゼ・ナチュラリスト・オン・ゼ・リヴァー・アマゾンス》』アナコンダ蛇が四十二フィートまで長じた事ありと載せ、テッフェ河汀で小児が遊び居る所へアナコンダが潜み来て巻き付いて動き得ざらしめその父児の啼《な》くを聞きて走り寄り、奮って蛇の頭を執らえ両|齶《あご》を※[#「てへん+止」、第3水準1−84−71]《ひ》き裂いたと言う。錦絵や五姓田《ごせだ》氏の油絵で見た鷺池平九郎の譚もまるで無根とも想われぬ。アマゾン辺の民|一汎《いっぱん》に信ずるはマイダゴア(水の母また精)とて長《たけ》数百フィートの怪蛇あり、前後次第して河の諸部に現わると。『千一夜譚《サ
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