ウザンドナイツ・エンド・ア・ナイト》』に海商シンドバッド一友と樹に上り宿すると夜中大蛇来てその友を肩から嚥《の》みおわり緊《きび》しく樹幹を纏《まと》うて腹中の人の骨砕くる音が聞えたと出で、有名な東洋ゴロ兼|法螺《ほら》の日下|開山《かいさん》ピントはスマトラで息で人殺す巨蛇に逢ったといい、ドラセルダ、ブラジルのサンパウロを旅行中その僕《しもべ》大木の幹に腰掛くると動き出したから熟《よく》視《み》ると木でなくて大蛇だったと記した。『山海経《せんがいきょう》』に巴蛇《はじゃ》象を呑む、一六八三年ヴェネチア版ヴィンセンツオ・マリヤの『東方行記《イル・ヴィアジオ・オリエンタリ》』四一六頁にインドのマズレ辺に長九丈に達する巨蛇ありて能く象を捲き殺す、その脂は薬用さる、『梁書』に〈倭国獣あり牛のごとし、山鼠と名づく、また大蛇あり、この獣を呑む、蛇皮堅くして斫《き》るべからず、その上孔あり、乍《はや》く開き乍く閉づ、時にあるいは光あり、これを射て中《あつ》れば蛇すなわち死す〉。日本人たるわれわれ何とも見当の付かぬ珍談だが何か鯨の潮吹《しおふき》の孔などから思い付いた捏造《ねつぞう》説でなかろうか。
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