お》し合せ長刀《なぎなた》で担《にの》うて上り、堂辺へ置いたまま現在した、またその鐘の面に柄附《えつき》の鐘様の窪《くぼ》みあり、竜宮の乙姫《おとひめ》が鏡にせんとて、ここを採り去ったという、由来書板行して、寺で売りいたと。
 何がな金にせんと目論み、一つの鐘に二つまで瑕の由来を作った売僧輩《まいすはい》の所行《しわざ》微笑の至りだが、欧州の耶蘇《ヤソ》寺にも、愚昧な善男女を宛《あ》て込んで、何とも沙汰の限りな聖蹟霊宝を、捏造《ねつぞう》保在した事無数だ。試みに上に引いたコラン・ド・プランチーの『評彙』から数例を採らんに、ローマにキリストの臍帯《さいたい》および陰前皮《まえのかわ》と、キリストがカタリン女尊者に忍び通うた窓附の一室、またアレキシス尊者登天の梯《はしご》あり。去々年独軍に蹂躙されたランスの大寺に、石上に印せるキリストの尻蹟あり、カタンにアガテ女尊者の両乳房、パリ等にキリストの襁褓《むつき》、ヴァンドームにキリストの涙、これは仏国革命の際、実検して南京玉と判《わか》った。またローマに、日本聖教将来の開山ハビエロの片腕、ロヨラ尊者の尻、ブロア附近にキリストの父が木を伐る時出し
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