た声、カタロンとオーヴァーンは、聖母マリアの経水|拭《ふ》いた布切《ぬのぎれ》、オーグスブールとトレーヴにベルテレミ尊者の男根、それからグズール女尊者の体はブルッセルに、女根と腿《もも》はオーグスブールに鎮坐して、各々随喜恭礼されたなど、こんな椿事《ちんじ》は日本にまたあるかいな。
 されば弁慶力試しや、男装した赤染衛門の手印などは、耶蘇坊主の猥雑《わいざつ》極まる詐欺に比べて遥かに罪が軽い、それから『川角太閤記《かわすみたいこうき》』四に、文禄元辰二月時分より三井寺の鐘鳴りやみ、妙なる義と天下に取り沙汰の事と見ゆ、これも何か坊主どもの騙術《まやかし》だろうが、一体この寺の鐘性弱いのか、またさなくとも、度々《たびたび》の兵火でしばしば※[#「比+皮」、128−12]裂《ひびわれ》たのを、その都度よい加減に繕うたが、ついに鳴りやんだので、その※[#「比+皮」、128−13]裂や欠瑕を幸い、種々伝説を造って凡衆を誑《たぶら》かしたのだろう、かようの次第で三井の鐘が大当りと来たので、これに倣《なろ》うて他にも類似の伝説附の鐘が出て来たは、あたかも江戸にも播州《ばんしゅう》にも和歌山にも皿屋敷
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