つ》竜王が己れを蓋《おお》いくれたを懌《よろこ》び、礼に何を遣ろうかと問うと、われら竜族は常に金翅鳥《こんじちょう》に食わるるから、以後食われぬようにと答え、仏すなわち彼の背に印を付けたので、今に帽蛇にその印紋ある奴は、鳥類に食われぬという。かく那伽はもと帽蛇の事なるに、仏教入った頃の支那人は帽蛇の何物たるを解せず、その霊異《ふしぎ》にして多人に崇拝さるる宛然《さながら》支那の竜同然なるより、他の蛇輩と別たんとて、これを竜と訳したらしい。ただしインドにおいても那伽を霊異とするより、追々蛇以外の動物の事相をも附け加え、上に引いた『大孔雀呪王経』に言わるる通り、二足四足多足等支那等の竜に近いものを生じたが、今に至るまで本統の那伽は依然帽蛇で通って居る。支那に至っては、上古より竜蛇の区別まずは最も劃然《かくぜん》たり。後世日本同様異常の蛇を竜とせる記事多きも、それは古伝の竜らしき物実在せぬよりの牽強《こじつけ》だ。
[#「第4図 帽蛇」のキャプション付きの図(fig1916_04.png)入る]
 全体竜と蛇がどう差《ちが》うかといわんに、『本草綱目』に、今日の動物学にいわゆる爬虫類から亀の
前へ 次へ
全155ページ中85ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
南方 熊楠 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング