》(第四図)は誰も知るごとく南アジアからインド洋島に広く産する蛇で、身長六フィート周囲六インチに達し、牙に大毒あるもむやみに人を噛まず、頭に近き肚骨《あばらぼね》特に長く、餌を瞰《ねら》いまた笛声を聴く時、それを拡げると喉が団扇《うちわ》のように脹《ふく》れ、惣身《そうみ》の三分一を竪《た》てて嘯《うそぶ》く、その状極めて畏敬すべきところからインド人古来これを神とし、今も卑民のほかこれを殺さず。卑民これを殺さば必ず礼を以て火葬し、そのやむをえざるに出でしを陳謝《いいわけ》す。一八九六年版、クルックの『北印度俗間宗教および民俗誌《ゼ・ポピュラル・レリジョン・エンド・フォークロール・オブ・ノルザーン・インジア》』二巻一二二頁に拠《よ》れば、その頃西北諸州のみに、那伽《ナーガ》すなわち帽蛇崇拝徒二万五千人もあった。昔アリア種がインドに攻め入った時、那伽種この辺に栄え、帽蛇を族霊《トテム》としてその子孫と称しいた。すなわち竜種と漢訳された民族で、ついにアリア人に服して劣等部落となった。件《くだん》の畜生中第一に仏法に帰依した竜王とは、この竜種の酋長を指《さ》したであろう。俗伝にはかの時|仏《ぶ
前へ 次へ
全155ページ中84ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
南方 熊楠 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング