用済み還って妻に問うに、主が出で往った日来た限り、一僧も来らずと答う、長者寺に往って問うに、われら不如法《ふにょほう》の家に入らぬ定めだと対《こた》う。長者今後は必ず如法に請ずべければ何分前通りと切願して、僧輩も聞き入れ、他日来て食を受く、長者すなわち妙光を一室に鎖閉《とじこ》め、自ら食を衆僧に授くるその間、妙光室内でかの僧この僧と、その美貌を臆《おも》い出し、極めて愛染《あいぜん》を生じ、欲火に身の内外を焼かれ、遍体汗流れて死んだ。長者僧を供養しおわり、室を開けて見れば右の始末、やむをえず五色の氈《せん》もてその屍を飾り、葬送して林中に到る。折悪《おりあ》しく五百群賊盗みし来って、ここに営しいたので、送葬人一同逃げ散った。群賊怪しんで捨て去られた屍を開き、妙光女魂既に亡《うせ》たりといえども、容儀儼然活けるがごとく、妍華《けんか》平生に異ならざるを覩《み》、相《あい》いいて曰く、この女かくまで美艶にして、遠く覓《もと》むるも等類なしと、各々|染心《ぜんしん》を生じ、共に非法を行いおわって、礼金として五百金銭を屍の側において去った。天明《よあけ》に及び、四方に噂《うわさ》立ち皆いわく、
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