この本文を拠《よりどころ》としたのだろ。さて竜に生まるるは、必ずしも瞋痴《ばかにおこ》った者に限らず、吝嗇《けち》な奴も婬乱な人も生まれるので、吝《けち》な奴が転生した竜は相変らず慳《しわ》く、婬《みだら》なものがなった竜は、依然多淫だ。面倒だが読者が悦ぶだろから、一、二例を挙げよう。
『大毘盧遮那加持経《だいびるしゃなかじきょう》』に、人の諸心性を諸動物に比べた中に、広大なる資財を思念するを竜心と名づけた。わが邦で熊鷹根生というがごとし。今日もインドで吝嗇漢《しわんぼう》嗣子なく、死ねば蛇と化《な》って遺財を守るという(エントホヴェン輯『グジャラット民俗記《フォークローアノーツ》』一一九頁)。すべてインドで財を守る蛇はナガ、すなわち載帽蛇《コブラ・デ・カペロ》で、多くの場合に訳経の竜と相通ずる奴だ(後に弁ずるを読まれよ)。『賢愚因縁経』四に、波羅奈国の人苦心して七瓶金を蓄え、土中に埋み碌《ろく》に衣食せず病死せしが、毒蛇となってその瓶を纏《まと》い数万歳を経つ、一朝自ら罪重きを悟り、梵志《ぼんし》に托し金を僧に施して、蛇身を脱《のが》れ天に生まれたとあり。『今昔物語』十四なる無空律師
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