万銭を隠して蛇身を受けた話、また聖武天皇が一夜会いたまえる女に金《こがね》千両賜いしを、女死に臨み遺言して、墓に埋めしめた妄執で、蛇となって苦を受け、金を守る、ところを吉備大臣《きびのおとど》かの霊に逢いて仔細を知り、掘り得た金で追善したので、蛇身から兜率天《とそつてん》へ鞍替《くらがえ》したちゅう話など、かのインド譚から出たよう、芳賀博士の攷証本に見るは尤も千万だ。降って『因果物語』下巻五章に、僧が蛇となって銭を守る事二条あり。『新著聞集《しんちょもんじゅう》』十四篇には、京の富人溝へ飯を捨つるまでも乞食に施さざりし者、死後蛇となって池に住み、蓑《みの》着たように蛭《ひる》に取り付かれ苦しみし話を載す。
 婬乱者が竜と化《な》った物語は、『毘奈耶雑事』と『戒因縁経』に出で、話の本人を妙光女とも善光女とも訳し居るが、概要はこうだ。室羅伐《スラヴァスチ》城の大長者の妻が姙《はら》んだ日、形貌《かお》非常に光彩《つや》あり、産んだ女児がなかなかの美人で、生まるる日室内明照日光のごとく、したがって嘉声《かせい》城邑《じょうゆう》に遍《あまね》かった。しかるところ相師あり、衆と同じく往き観て諸
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